成長ホルモン治療読む時間 約7分
成長ホルモン治療でがんのリスクは上がる?国内外の調査で分かっていること
公開日:2026年10月4日 更新日:2026年10月4日
がんの治療歴やがんになりやすい体質などの危険因子がない子どもでは、成長ホルモン治療でがん全体が増えるという結果は、国内外の大きな調査でははっきり示されていません。一方で、小児がんの治療を受けたあとの子どもでは、別のがん(二次がん)が増える可能性が報告されています。また、一部のがんについては引き続き調べる必要があるとされています。悪性腫瘍がある人には使えない薬で、治療前と治療中に主治医が確認していきます。
なぜ、がんとの関係が心配されるの?
成長ホルモンと、成長ホルモンの働きで体の中に増えるIGF-1には、細胞を増やす働きがあります。そのため、もともと体の中にあるがんの細胞の増殖にも影響するのではないかと心配されてきました。
国内の成長ホルモン製剤の添付文書では、悪性腫瘍のある人には投与しない(禁忌)とされており、その理由として、成長ホルモンが細胞を増やす作用をもつことが挙げられています。脳腫瘍による成長ホルモン分泌不全の子どもでは、腫瘍の進行や再発を十分に観察することも求められています。
出典 [1]
添付文書には、どう書かれている?
添付文書の「その他の注意」には、次のような報告が載っています。どれも「因果関係がはっきりした」という意味ではなく、注意して観察するよう求める記載です。
- 成長ホルモンと白血病の因果関係は明らかではないが、投与を受けた人に白血病が出たという報告がある。定期的に血液検査をするなど、状態を十分に観察する
- 白血病やがんを起こしやすい生まれつきの病気、免疫不全、脳腫瘍などで放射線治療を受けたことがある、抗がん薬や免疫を抑える薬を使ったことがある場合などは、特に注意して観察する
- 成長ホルモンの投与を受けた人に、脳腫瘍が再発したという報告がある
- 小児がんの治療を受けたことがある人に投与すると、二次性の腫瘍が出るリスクが上がるという報告がある
出典 [1]
国内の調査では、何が分かっている?
成長科学協会は、1975年から国内で成長ホルモン治療を受けた人の安全性を調べてきました。1997年までの32,000人以上のデータをまとめた報告(1999年)では、白血病になりやすい要因をもたない人での白血病の起こり方は、0〜15歳の一般の子どもと同じくらいで、増える可能性は要因のある人に限られるとしています。
国内で成長ホルモン治療を受けた子ども2,345人を平均3.2年追った調査(GeNeSISの日本のデータ、2017年)では、腫瘍が報告されたのは13人でした。悪性のものは脳腫瘍(胚細胞腫)1人で、5人は頭蓋咽頭腫(うち4人は再発)、残りは皮膚などの良性の腫瘍でした。研究者は、新たな腫瘍やがんが増える様子は見られなかったとしています。
ただし、観察の期間は数年が中心で、治療を終えて大人になってからの長期のデータは、国内ではまだ限られています。
欧州の大規模調査(SAGhE)では?
SAGhEは、欧州8か国で子どものころに成長ホルモン治療を受けた23,984人を、大人になるまで追った調査です。2017年の報告では、全体としては一部のがんが多く見られましたが、その多くは、がんの治療を受けたあとに成長ホルモンを使った人に起きた二次がんによるものでした。ほかに大きな病気のない成長障害の人では、がんの明らかな増加は見られませんでした。
一方で、がんの治療歴がない人でも、骨のがんと膀胱のがんは統計的に多いという結果でした。ホジキンリンパ腫も、追跡期間が長くなるほど増える傾向がありました。研究者は、成長ホルモンががんを引き起こすことを全体として支持する結果ではないとしながら、これらの点はさらに調べる必要があるとしています。
同じ調査で髄膜腫(脳を包む膜にできる、多くは良性の腫瘍)を調べた報告(2019年)では、がんの治療で頭に放射線を受けた人では髄膜腫がとても多かった一方、放射線を受けていない人では有意な増加は見られませんでした。研究者は、放射線治療による影響が大きいと考えています。
ほかの国際的な調査やまとめでは?
30か国で成長ホルモン治療を受けた子ども22,311人を追った観察研究(GeNeSIS、2019年)では、がんの治療歴のない子どもの最初のがんの起こり方は、一般の人と比べて高くありませんでした。一方、がんを経験した622人のうち31人(5.0%)に二次がんが見られました。
米国小児内分泌学会の委員会が文献をまとめた報告(2015年)は、がんの危険因子がない子どもでは、成長ホルモン治療とがんの関係は確認されていないとしています。ただし、その根拠の多くは製薬会社などによる市販後の調査で、比べる相手(治療を受けていない人)の設定が十分でないという限界も指摘しています。小児がんを経験した子どもについては、再発は増えないと考えられる一方、二次がんのリスクが上がる可能性があるとしています。
欧州と米国の学会の合同会議の声明(2016年)は、治療中だけでなく治療を終えたあとも、長い期間にわたって安全性を見守り続けることが欠かせないとしています。
特に注意が必要なのは、どんな場合?
調査の結果や添付文書から、次のような場合は、治療を始めるかどうかを慎重に判断し、治療中もより注意して経過を見ることになります。米国小児内分泌学会の報告は、がんになりやすい体質のある子どもについては、根拠がまだ十分でないため一人ひとり判断し、使う場合は適切な見守りをするよう勧めています。
ヌーナン症候群のように、乳幼児期に一部の腫瘍が起こりやすい体質がある病気では、学会の注意事項にもとづいて治療を始める年齢などが決められています。くわしくは「ヌーナン症候群と身長」のコラムで説明しています。
- 今、悪性腫瘍がある、または治療中(投与しない)
- 小児がんや脳腫瘍の治療を受けたことがある
- 頭や体に放射線治療を受けたことがある
- がんや白血病が起こりやすい生まれつきの病気や体質がある
- 家族にがんが多いなど、気になる家族歴がある
病気のない低身長に使う場合のデータは?
原因となる病気が見つからない低身長への成長ホルモンの使用は、国内で承認された効能・効果に含まれない適応外使用です。ここで紹介した調査の多くは、成長ホルモン分泌不全症など承認された病気の子どもが中心で、適応外の使い方にそのまま当てはまるとは限りません。適応外使用での長期の安全性を国内で調べた大規模なデータは見当たりません。
日本小児内分泌学会は、成長ホルモンの分泌不全がない大人が若返りなどを期待して使う誤った使い方について、悪性腫瘍などの懸念も払拭できていないと注意を促しています。治療を考えるときは、期待できる効果の限界とあわせて、分かっていないことがある点も確認しておきましょう。
治療中に、家族が気をつけることは?
治療前には、持病やこれまでの治療歴、使っているお薬を医師に正確に伝えましょう。治療中は、主治医の指示に沿って定期的に診察や検査を受けます。
いつもと違う体調の変化が続くときは、次の診察を待たずに主治医に相談してください。強い頭痛、何度も吐く、けいれんなどがあるときは、119番または救急医療機関へ連絡してください。ノビケアでも、悪性腫瘍がある場合や治療中の場合は成長ホルモン治療を行わず、治療前に持病や治療歴を確認しています。
成長ホルモン治療とがんについてよくある質問
Q. 成長ホルモン治療を受けると、将来がんになりやすくなりますか?
A. 危険因子のない子どもでは、国内外の大きな調査で、がん全体が増えるという結果ははっきり示されていません。ただし、一部のがんや長期の影響については、引き続き調べられています。
Q. 小児がんの治療を受けたことがあります。成長ホルモン治療はできますか?
A. 二次がんのリスクなどを考えて、がんの主治医と内分泌の医師が一緒に判断します。治療を受けるかどうか、始める時期は一人ひとり違います。
Q. 治療中に定期的な血液検査をするのはなぜですか?
A. 血糖や甲状腺の働きを確かめるほか、添付文書で血液の状態を観察するよう求められているためです。
まとめ
がんの危険因子がない子どもでは、成長ホルモン治療でがん全体が増えるという結果は、国内外の大きな調査でははっきり示されていません。一方、小児がんの治療を受けた子どもでは二次がんの可能性があり、一部のがんや長期の影響は引き続き調べられています。治療歴や体質を医師に伝え、治療中も定期的に見守ってもらいましょう。
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参考にした資料
- PMDA「ノルディトロピン フレックスプロ注 添付文書」(2025年9月改訂 第3版)
- Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism「Recent status in the occurrence of leukemia in growth hormone-treated patients in Japan」(成長科学協会の調査、国内で成長ホルモン治療を受けた32,000人以上、1999年)
- Clinical Pediatric Endocrinology「Incidence of diabetes mellitus and neoplasia in Japanese short-statured children treated with growth hormone in the GeNeSIS」(国内で成長ホルモン治療を受けた子ども2,345人、2017年、PMC)
- Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism「Cancer Risks in Patients Treated With Growth Hormone in Childhood: The SAGhE European Cohort Study」(欧州8か国、子どものころに成長ホルモン治療を受けた23,984人、2017年、PMC)
- Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism「Risk of Meningioma in European Patients Treated With Growth Hormone in Childhood: Results From the SAGhE Cohort」(欧州5か国、10,403人、2019年、PMC)
- Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism「Safety Outcomes During Pediatric GH Therapy: Final Results From the Prospective GeNeSIS Observational Program」(30か国、成長ホルモン治療を受けた子ども22,311人の観察研究、2019年、PMC)
- Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism「Risk of Neoplasia in Pediatric Patients Receiving Growth Hormone Therapy — A Report From the Pediatric Endocrine Society Drug and Therapeutics Committee」(米国小児内分泌学会の委員会による文献のまとめ、2015年、PMC)
- European Journal of Endocrinology「GH safety workshop position paper: a critical appraisal of recombinant human GH therapy in children and adults」(欧州小児内分泌学会・成長ホルモン研究学会・米国小児内分泌学会の合同会議の声明、2016年、PMC)
- 日本小児内分泌学会「成長ホルモンとは」
- ノビケア「成長ホルモン治療について」(費用・副作用・適応外使用)
- ノビケア「お問い合わせ」