成長ホルモン治療読む時間 約6分
注射した場所のへこみ・しこりを防ぐには:注射部位の替え方
公開日:2026年10月4日 更新日:2026年10月4日
注射した場所のへこみは皮膚の下の脂肪がやせる「脂肪萎縮」、ふくらみやしこりは脂肪が厚くなる「脂肪肥大」で、同じ場所への注射のくり返しがおもな原因と考えられています。成長ホルモン製剤の添付文書と診療ガイドラインは、上腕・太もも・おなか・おしりなど広い範囲を、順番に場所を変えて打つよう求めています。家族で順番を決めて記録し、ときどき見て触って確かめ、気になる変化があれば主治医に伝えましょう。
へこみ・しこりは、なぜできる?
日本内分泌学会などがまとめた診療ガイドライン(2023年版)の成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療の手引きは、同じ場所に注射を続けると脂肪萎縮や脂肪肥大が起こることがあるとして、注射部位を毎日変えるよう指導するとしています。脂肪萎縮は皮膚の下の脂肪が減ってへこむ状態、脂肪肥大は脂肪が厚くなって、ふくらみや弾力のあるしこりになる状態です。
添付文書にも、こうした変化が副作用として挙げられています。毎日型のソマトロピンBS皮下注「サンド」シュアパルでは「皮下脂肪の消失」、週1回型のソグルーヤでは「脂肪肥大症」、エヌジェンラでは「脂肪組織萎縮症」が記載されています。エヌジェンラの添付文書は、脂肪組織萎縮症を防ぐために、注射部位を投与ごとに順序よく移動するよう求めています。
注射のあとの一時的な赤みや腫れ、小さな内出血とは別のものです。数日で消える反応と、何週間も残るへこみやしこりは、分けて見ていきましょう。
実際には、どのように起こる?
トルコから2025年に報告された3人の例(Journal of Clinical Research in Pediatric Endocrinology)では、週1回型の製剤(ソムアトロゴン)を使っていた6〜13歳の子どもの二の腕に、治療を始めて9〜12か月でへこみ(脂肪萎縮)が現れました。3人とも、同じ場所にくり返し注射していました。
治療は続けたまま、注射の場所を太ももとおなかに移したところ、3か月以内にへこみは元に戻り、その後も再発しなかったと報告されています。伸びも順調だったとされています。少人数の報告ですが、場所を替えることの大切さを示しています。
インスリンの注射についての国際的な推奨(Mayo Clinic Proceedings、2016年)は、脂肪肥大は注射の治療でよく起こる合併症で、薬の吸収を乱すため、そこには注射しないこと、正しく場所を替えれば予防に役立つことを示しています。成長ホルモンでも同じように吸収が変わるかはっきりしていません。
どこに打てる?場所によって効き方は違う?
毎日型・週1回型ともに、添付文書では上腕(二の腕)、太もも、おなか、おしりが注射する場所として挙げられています。診療ガイドラインの手引きでも、おしり、太もも、上腕の外側、おなかの前側が使えるとされています。実際にどこを使うかは、医療機関で教わった範囲にしたがってください。
デンマークで成長ホルモンが不足している9人を調べた研究(Clinical Endocrinology、1994年)では、おなかに打つと太ももより早く吸収されましたが、一定時間の血中の成長ホルモンの量の平均や、IGF-1の平均値は、どちらの場所でも差がありませんでした。少人数の研究ですが、場所を順に替えても効き方が大きく変わるわけではないと考えられます。
注射部位は、どんな順番で替えるとよい?
ジェノトロピンゴークイック注用の患者向医薬品ガイドは、毎回場所を変え、前回の場所から少なくとも2cm離して打つこととしています。毎日打つ場合は、1つの場所の中でも少しずつずらしていくと、同じ点に戻るまでの間隔をあけられます。
家庭では、たとえば次のような決め方があります。あくまで一例で、どの場所を使ってよいかは主治医の指示にしたがってください。
子どもが痛がらない場所や、本人が打ちやすい場所に偏りがちです。二の腕は脂肪が薄い子もいるため、使ってよいかを確認しておきましょう。痛みを減らす工夫は「成長ホルモン注射の痛みを減らす工夫」のコラムで説明しています。
- 使う場所(右の太もも、左の太もも、おなかの右、おなかの左など)をあらかじめ決める
- 曜日や日付で、どこに打つかの順番を決める
- 1つの場所の中では、前回の点から2cm以上ずらす
- カレンダーや体の絵に、打った場所を記録する
- 本人が打つ場合も、保護者がときどき記録を見て偏りがないか確かめる
家では、どのように確かめる?
お風呂のあとなど明るい場所で、注射に使っている場所を見て、指の腹で軽く触ってみましょう。左右で比べると変化に気づきやすくなります。月に1回など、確かめる日を決めておくと続けやすくなります。次のような変化がないかを見ます。
同じガイドは、骨ばっている、あざがある、赤くなっている、痛みがある、硬くなっている場所や、傷や皮膚の病気がある場所を避けるよう示しています。こうした場所を見つけたら、そこは使わずに、ほかの場所に移しましょう。
- 皮膚がくぼんでいる、光の当たり方で影が見える
- まわりより盛り上がっている、触ると弾力のあるかたまりがある
- 硬くなっている、押すと痛い
- 赤み、腫れ、熱っぽさが何日も続いている
出典 [9]
場所のほかに、気をつけることは?
注射針は毎回新しいものを、注射の直前に付けることが添付文書で決められています。使い終わった針をもう一度使わないようにしましょう。
冷蔵した薬は、製剤によっては注射の前に室温に戻すよう書かれています。ソマトロピンBS皮下注「サンド」シュアパルの患者向医薬品ガイドは、薬液が冷たすぎると痛みが強くなることがあるため、注射する30分前までに冷蔵庫から出すよう示しています。診療ガイドラインの手引きにも同じ趣旨の記載がありますが、扱いは製剤ごとに違うため、自分の製剤の説明書で確かめてください。
子どもが自分で打つようになると、打ちやすい場所ばかり使うことがあります。本人に任せる手順が増えても、場所の記録は家族でいっしょに見ていくと安心です。
へこみやしこりに気づいたら?
その場所への注射はやめてほかの場所に移し、次の診察で主治医に伝えてください。いつごろからか、どのくらいの大きさかが分かるよう、写真を撮っておくと説明しやすくなります。オンライン診療で相談する場合も、明るい場所で撮った写真があると、画面越しに伝えやすくなります。
先に紹介した報告では場所を替えることで数か月のうちに元に戻っていますが、戻るまでの期間には個人差があり、どの場合にも当てはまるわけではありません。へこみが大きい、広がっていく、強い痛みや腫れ、熱をもった赤みが続くといった場合は、次の診察を待たずに処方を受けた医療機関に相談しましょう。製剤や注入器の見直しが必要かどうかは、主治医が判断します。
出典 [5]
注射部位のへこみ・しこりについてよくある質問
Q. へこみができたら、治療をやめなければいけませんか?
A. まずは場所を替えて様子を見ることが多いと考えられますが、続け方は主治医が判断します。自己判断で注射をやめたり量を変えたりしないでください。
Q. おなかだけに打つと決めてもよいですか?
A. 同じ範囲に偏ると、へこみやしこりのもとになります。添付文書は上腕・太もも・おなか・おしりなど広い範囲を順に使うよう求めているため、使える場所を主治医と確認しておきましょう。
Q. しこりの上に打つと、痛みが少ない気がします。
A. 硬くなった場所は痛みを感じにくいことがありますが、そこに打つのは避けましょう。インスリンでは、脂肪肥大の部分に打つと吸収が乱れることが知られています。
まとめ
注射した場所のへこみやしこりは、同じ場所への注射のくり返しがおもな原因で、広い範囲を順番に替えることで防ぎやすくなります。打った場所を記録し、ときどき見て触って確かめ、変化があれば主治医に伝えましょう。ノビケアで治療を受けている方も、注射の場所や皮膚の変化で気になることがあればご相談ください。
お子さまの身長の伸び方が気になる場合は、医師による無料相談で、これまでの記録を見ながらご相談いただけます。予約は公式LINEからお受けしています。
公式LINEで無料相談を予約するこの記事は、ノビケアの医師が内容を確認しています(編集方針)。
参考にした資料
- 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会(厚生労働科学研究班・日本内分泌学会)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」(日本内分泌学会雑誌 Vol.99 Suppl.、2023年7月、J-STAGE、PDF)
- PMDA「ソマトロピンBS皮下注「サンド」シュアパル 添付文書」(2026年8月改訂 第3版)
- PMDA「ソグルーヤ皮下注 添付文書」(2026年6月改訂 第4版)
- PMDA「エヌジェンラ皮下注ペン 添付文書」(2026年7月改訂 第3版)
- Journal of Clinical Research in Pediatric Endocrinology「Reversible Injection-Site Lipoatrophy Induced by Long-Acting Growth Hormone (Somatrogon) in Pediatric Growth Hormone Deficiency: A Case Series」(Şen Küçük K ほか、2025年、トルコの3人、PubMed)
- Mayo Clinic Proceedings「New Insulin Delivery Recommendations」(Frid AH ほか、2016年、54か国183人の専門家による注射手技の推奨、PubMed)
- PMDA「ノルディトロピン フレックスプロ注 添付文書」(2025年9月改訂 第3版)
- Clinical Endocrinology「Pharmacokinetics and metabolic effects of growth hormone injected subcutaneously in growth hormone deficient patients: thigh versus abdomen」(Laursen T ほか、1994年、デンマークの9人、PubMed)
- PMDA「患者向医薬品ガイド ジェノトロピンゴークイック注用」(2024年8月更新)
- PMDA「患者向医薬品ガイド ソマトロピンBS皮下注「サンド」シュアパル」
- ノビケア「お問い合わせ」