成長ホルモン治療読む時間 約6分
成長ホルモン治療を終えたら:大人の診療への引き継ぎと検査
公開日:2026年10月4日 更新日:2026年10月4日
成長ホルモン治療を終える思春期は、子どもの診療から大人の診療へ、計画的に移っていく「移行期」にあたります。成長ホルモン分泌不全症では、大人になっても治療が必要かを再検査で確かめ、必要な場合は大人の診療科へ引き継ぎます。病名や薬を本人が説明できるよう早めに準備し、医療費の助成の制度が変わる時期も確かめておきましょう。
「移行期医療」とは?治療を終えることと何が違う?
日本小児内分泌学会は、子どもの医療から大人の医療へ、一人ひとりに合った形で計画的に移っていく時期の医療を「移行期医療」と呼び、単に診療科を変える「転科」とは違うと説明しています。思春期から若い大人の時期に、医療の管理の中心を保護者から本人へ移していくことが目的です。
成長ホルモン分泌不全症について、日本内分泌学会などの診療ガイドライン(2023年版)の手引きは、背を伸ばすことが主な目的の子どもの治療から、体の代謝や生活の質を保ち、合併症を防ぐことが主な目的の大人の治療へ移る期間を「トランジション」と呼び、思春期の年齢がこれにあたるとしています。
同学会の複合型下垂体ホルモン分泌不全症の移行期ガイドでは、移行には、毎日の病気の管理の責任が本人に移ること、診療の中心となる科が変わること、年齢による体の変化に合わせて治療内容が変わること、の3つの要素があるとしています。
大人になっても診療が続くのは、どんな場合?
日本小児内分泌学会の提言は、子どものころに始まった内分泌の病気のほとんどは、大人になっても医療を続ける必要があるとしています。ただし、成長ホルモン治療を受けていた理由によって、続く内容は違います。
成長ホルモン分泌不全症の場合、同学会の移行期ガイドは、子どものころに成長ホルモンだけが足りないと診断された人の約半数は、大人になってから再検査すると正常な分泌を示すことが知られているとしています。一方、下垂体のホルモンが3種類以上足りない場合は、成長ホルモンの不足は続くとされています。このため、再検査で大人の治療が必要かを確かめます。
ターナー症候群など、成長ホルモンの不足以外の理由で治療していた病気では、身長以外の健康管理が大人になっても続きます。原因となる病気が見つからない低身長で治療していた場合は、日本小児内分泌学会が、成長ホルモンの分泌が足りない状態がない大人への治療について十分な根拠は示されていないとしているため、大人になってから成長ホルモン治療を続ける対象にはなりません。
大人になる前の再検査では、何をする?
診療ガイドラインの手引きでは、身長の伸びが終わった時点(1年の伸びが1cm以下、または骨端線が閉じた時点)か、それに近づいた時点で、できるだけ早く再評価するとしています。再評価の前には、成長ホルモン治療を1か月以上休みます。詳しい流れは「成長ホルモン治療をやめたあと、身長はどうなる?」のコラムでも触れています。
移行期ガイドでは、大人になってからも、ほかのホルモンの値、肝臓の働きや脂質を含む血液検査、骨密度などを定期的に確かめるとしています。再検査の多くは、子どものころに治療を受けた医療機関で行われます。入院が必要かどうかは、検査の種類と医療機関によって違います。
| 検査 | 何を確かめる? |
|---|---|
| IGF-1(血液検査) | 休薬中の値が、年齢と性別の基準値の−2SD以下なら、重い不足の可能性がある。ただし正常範囲でも否定はできない |
| 成長ホルモン分泌刺激試験 | インスリン、アルギニン、グルカゴン、GHRP-2のいずれかの薬を使い、成長ホルモンの出方を調べる |
| ほかの下垂体ホルモン | 甲状腺や副腎、性腺に関わるホルモンが足りているかを確かめる |
| 骨密度・脂質など | 大人の成長ホルモン不足で起こりやすい体の変化がないかを見る |
移行の準備は、いつから始める?
日本小児内分泌学会の提言は、10〜12歳ごろからは本人にも正しい病名や病気の説明をすべきだとし、小学校高学年から中学生以降は、本人だけが診察室に入って医療者と話す機会を積極的に作ることが有効だとしています。日本小児科学会の提言(2023年)も、10代の早いうちから移行の準備を始めることを勧めています。
大人の診療科へ移る時期は、病気や家庭の状況によって個別に決めます。日本小児内分泌学会の提言は、入学や就職などの区切りを目安にする方法を挙げ、医療的・社会的に複雑な事情がある場合は、移行の完了を20歳代の目安とすることを提案しています。日本小児科学会の提言は、病状や気持ちが不安定な時期の転科は避けるべきだとしています。
本人が身につけておきたいことは?
日本小児科学会の提言は、本人が自分で管理しやすいよう、持ち歩ける「医療サマリー」を本人と一緒に作り、大人の診療科に移ってからも使い続けることを勧めています。日本小児内分泌学会の提言では、サマリーに書く項目として、病気の今の状態と治療、これまでの経過、今後必要な診療や検査、日常生活の注意点、急ぎの対応が必要な症状、医療費の助成などを挙げ、本人が分かる言葉で書くことが大切だとしています。
大人になる前に、次のようなことを本人が自分で説明したり、行ったりできるか、少しずつ確かめていきましょう。
- 自分の病名と、どんな病気か
- 使っている薬の名前と量、使う時間
- これからも必要な検査と、受診の間隔
- 急いで受診すべき症状と、そのときの連絡先
- 診察の予約や、薬の受け取りを自分でする
- 医療費の助成の手続きが必要かどうか
大人の診療科へは、どう移る?
日本小児内分泌学会の提言は、半年から1年ほど、小児科と大人の診療科の両方にかかる期間を置くことを選択肢の一つとして挙げています。移り方には、大人の診療科に完全に移る、両方で一緒に診る、小児科で診続ける、といった形があります。
日本小児科学会の提言は、転科のときに、救急や入院が必要になった場合の受け入れ先を決めておくこと、転科後も6か月ほどを目安に、大人の診療科への受診が続いているかを確かめることを求めています。紹介先の診療科や病院の名前、連絡先は、本人の医療サマリーにも書いておきましょう。
大人の成長ホルモン分泌不全症の病気そのものについては「大人の成長ホルモン分泌不全症とは?」のコラムで説明しています。
医療費の助成は、大人になるとどう変わる?
小児慢性特定疾病の医療費助成は18歳未満が対象で、18歳になった時点で対象になっていて、その後も治療が必要と認められる場合は、20歳未満まで続けられます。20歳以降は、この制度は使えません。
大人の制度である指定難病には、「下垂体前葉機能低下症(指定難病78)」があります。日本小児内分泌学会の移行期ガイドでは、脳の腫瘍などの病気に伴うもの、生まれつきの異常に伴うもの、複数の下垂体ホルモンが足りないもの、重症の成長ホルモン分泌不全症などが、助成の対象になりうるとしています。難病情報センターは、医療費助成は原則として重症の人を対象とするとしています。対象になるかどうかは一人ひとり違うため、移行の前に主治医に確かめてください。
国は都道府県に、移行期の医療を支える「移行期医療支援センター」を設けることを求めていますが、日本小児科学会の提言によると、設置している都道府県はまだ一部です。お住まいの地域にあるかどうかは、都道府県のホームページなどで確かめられます。
大人の診療への引き継ぎについてよくある質問
Q. 治療が終わったら、もう病院に行かなくてよいですか?
A. 病気によって違います。成長ホルモン分泌不全症では大人の治療が必要かを再検査で確かめ、ほかの病気でも身長以外の健康管理が続くことがあります。終える前に、今後の受診先を主治医と決めておきましょう。
Q. 大人の診療科は、何科になりますか?
A. 成長ホルモンなどのホルモンの病気は、多くの場合、内分泌内科(内分泌代謝科)で診ます。具体的な紹介先は主治医に相談してください。
Q. 進学で引っ越す予定があります。何を準備すればよいですか?
A. 医療サマリーや検査結果の写し、紹介状を用意し、引っ越し先で受診する医療機関を早めに決めておきましょう。助成の手続きが必要な場合は、住む地域の窓口にも確かめます。
まとめ
成長ホルモン治療が終わる時期は、大人の診療へ移る準備の時期でもあります。必要な再検査、本人の自己管理の練習、移る先と時期、医療費の助成の変わり方を、本人も加わって主治医と確かめておきましょう。ノビケアで治療を受けている方も、治療の終わり方で迷うときは、記録をお手元にご用意のうえご相談ください。
出典 [8]
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参考にした資料
- 日本小児内分泌学会「小児期発症内分泌疾患の成人への移行期医療に関する提言」(PDF)
- 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会(厚生労働科学研究班・日本内分泌学会)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」(日本内分泌学会雑誌 Vol.99 Suppl.、2023年7月、J-STAGE、PDF)
- 日本小児内分泌学会「移行期医療支援ガイド 複合型下垂体ホルモン分泌不全症」(PDF)
- 日本小児内分泌学会「成長ホルモンとは」
- 日本小児科学会 移行支援に関する提言作成ワーキンググループ「小児期発症慢性疾患を有する患者の成人移行支援を推進するための提言」(日本小児科学会雑誌127巻1号、2023年、PDF)
- 小児慢性特定疾病情報センター「医療費助成の概要」
- 難病情報センター「下垂体前葉機能低下症(指定難病78)」
- ノビケア「お問い合わせ」